SAP S/4HANAへの移行に関する最新情報をお知らせするブログシリーズの第4回になります。なお、本ブログの内容は2023年11月の技術情報に基づくものであり、将来変更となる可能性があります。
SAP S/4HANAにおける主要変更点情報(標準機能)
現在SAP ERPをご利用いただいているお客様にとって、ご利用いただいている機能がSAP S/4HANAでも同じように使用できるかどうかが最も大きな懸念点と言えます。多くのSAP ERPの機能はSAP S/4HANAでも使用可能ですが、機能によっては別機能に再配置されているものがあります。SAP ERPからのSAP S/4HANAへの変更箇所はシンプル化項目 と呼ばれ、という文書に全ての変更点が記載されています。Simplification listに加え、変更点を検索しやすくする目的でシンプル化項目カタログというサイトも提供されています。こちらではソースリリースとターゲットリリースを選択することで関連する差分のシンプル化項目が表示可能です。実際にSAP S/4HANA移行を計画される際にはお客様がご利用中の機能を元に関連するシンプル化項目を抽出するReadiness Checkレポートのご活用が必須となります。
多くの項目はシステムコンバージョンのステップの中で自動的に変換されますが、一部プレコンバージョンのステップで事前処理が必要な項目やビジネス判断を要するものがあります。
ここでは多くのお客様に関連する主要シンプル化項目についてご紹介いたします。
1.ビジネスパートナ(BP)
ほぼすべてのSAP ERPのお客様に関連するシンプル化項目がBPマスタです。SAP S/4HANAでは従来個別マスタとして管理されていた仕入先マスタ、得意先マスタがBPマスタとして一元管理されるようになります。SAP S/4HANAへのシステムコンバージョンにあたってのプレコンバージョンのステップとして全ての仕入先マスタ・得意先マスタをBPマスタに紐づける必要があります。この紐づけを実行するツールとしてCVI (Customer Vendor Integration) Cockpitを利用しますが CVI Cockpit を利用するための前提Note適用で苦労されるケースもあり3147029 – Guided Answer – CVI Cockpit and TCI for CVI にてガイドが提供されています。BPマスタは10桁のマスタであるため採番ルールや番号範囲を検討して頂く必要があります。BPマスタのロールとして存在するようになる得意先/仕入先には得意先/仕入先コードが保持されており、受発注プロセスではこのコードが引き続き利用されるためトランザクションデータへの影響はありません。マスタの登録、変更をBPというトランザクションから実施していただくことになるためマスタ登録、変更の運用の見直しは必要となります。(参照SAP Note: 2210486、2211312、2216176 、2430380、CVI cookbook)
SAP S/4HANAへのシステムコンバージョンではSAP ERP上で事前にCVIを実行し、得意先/仕入先マスタをBPマスタに紐づけしておき、SAP S/4HANA化したのちはBPマスタから登録する運用となります。
2.与信管理
SAP ERPでの与信管理(SD-BF-CM、FI-AR-CR)の機能はSAP Credit Management (FIN-FSCM-CR) に置き換わっています。それに伴い、カスタマイズやカスタマ与信マスタの移行が必要です。移行ツールは提供されていますが、従来の与信管理とFSCM与信管理には機能差分があり、ツールで移行できない部分もあるため、SAP S/4HANA移行プロジェクトの中でFit Gap分析とGapへの対応検討が必要となります。業務で利用するトランザクションコードやレポートなども変更が発生します。(参照SAP Note:2270544, 2217124)
3.固定資産管理
SAP S/4HANAでは新固定資産管理の使用が必須となります。移行ツールも提供されています。新固定資産管理では複数の償却領域でのリアルタイム転記が可能となります。固定資産実績データはユニバーサルジャーナルACDOCAと統合され情報可視性が向上します。(参照SAP Note:2270388)
4.MRP
SAP S/4HANAではMRPの仕組みもシンプル化されています。これに伴い保管場所MRP機能をMRPエリアに置き換えたり、BOMを考慮した生産計画に関連する品目には製造バージョンの登録が必須となっています。マスタ登録のフローなどを再定義する必要がありますのでSAP S/4HANA移行プロジェクトの中でFit Gap分析が必要です。(関連SAP Note: 2224371、2216528、2227579、2226333)
その他移行検討に関係する主なアプリケーションの変更例
※本リストは一部抜粋であるため詳細はSimplification Listをご参照ください。
会計領域
ロジスティクス領域
コンパチビリティパックについて
SAP S/4HANA導入プロジェクトにおいて検討が必要なものとしてコンパチビリティパック (=Compatibility scope matrix) にリストアップされている機能の扱いがあります。コンパチビリティパックとは、SAP ERPで提供されていた機能でSAP S/4HANAでは別の機能に切り替わることが決定しているものの、お客様にとって移行に猶予期間を設ける目的でSAP ERPで使用できた機能をSAP S/4HANAでも提供しているものです。ただし、使用権の期限は2025年12月31日までですのでそれまでに代替機能に置き換える必要があります。例外的に下記3 つのコンポーネント のCompatibility Pack 項目については、新しいソリューションで拡張機能が提供され、現在個別の拡張を活用するグローバル組織および顧客にとってはより広範な移行プロジェクトが必要になるため、使用権を 2030 年末まで延長しています。
ほとんどのコンパチビリティパック対象機能の代替機能はリリース済みですのでこれからシステムコンバージョンプロジェクトを実施されるお客様はプロジェクト内で代替機能への移行を検討いただくことをお勧めします。具体的な対象機能についてはSAP Note 2269324 – Compatibility Scope Matrix for SAP S/4HANA on-premiseの添付文書(S4HANA-CompatibilityScopeMatrix-DETAILS.pdfおよびS4HANA CompScope – Way Forward – Info.xlsx)、SAP S/4HANAのヘルプ文書のFeature Scope Descriptionの5章に記載があります。
現在ご利用中のSAP ERPでコンパチビリティパック対象機能を利用しているかのチェックもReadiness Checkで提供されるようになっています。なお、コンパチビリティパックノートの記載内容や製品の詳細に関するお問い合わせはインシデント経由で問い合わせ可能です。 Compatibility Pack に関する問い合わせを頂くための専用コンポーネント XX-SER-REL、接頭辞 “CompScope”にてお問い合わせください。
SAP Blog Post:
The Future of Compatibility Packs in SAP S/4HANA
Compatibility Scope: What Happens after 2025/2030
まとめ
本ブログは主に気を付けるべきSAP ERPとSAP S/4HANAの機能の相違点をご紹介しました。SAP S/4HANAへのシステムコンバージョンプロジェクトを計画される際に考慮すべき主要な機能差異のイメージをご理解いただけたと思います。
下記後続のブログで、カスタムコード(アドオン)の移行についてご説明しておりますので、是非、ご参照ください。
合わせて、以下のブログもご覧ください。
第1回 何故、SAP S/4HANAに移行するのか?目的の作り方
第3回 SAP Readiness Checkとシステムコンバージョンのステップを知ろう